アーユルヴェーダでは、心身の健康にとって「消化力」がとても大切とされています。
消化力はアグニ(Agni)と呼ばれ、人間が本来持っている免疫や代謝、排せつ、内臓機能、エネルギーなどを高める健康と快適さに関わると考えられています。
このアグニが適切であれば食べた物から栄養を取り込み、同時に不要な毒素が体外に排出されます。さらにアグニは食べ物だけでなく感情の消化も司るとされています。
IBS(過敏性腸症候群)の方にとっても、この消化力の考え方はとても有益であると思います。実際、私自身もアーユルヴェーダを学び始めてから、消化力を高めるための実践を続けていて、それが症状の改善に繋がっている実感があります。
そこで今回は心身の健康のカギを握ると考えられている、消化力アグニについてお話ししていきたいと思います。
アグニは食べた物を胃や腸で消化する力です。
IBSの多くの人は胃腸があまり強くない、人より繊細だと感じている方が多いのではないでしょうか。私自身、胃腸が悪いのだと感じ「腸活」と呼ばれるものを試したことがあります。
このアグニが弱っていると、栄養を吸収することも毒素を排出することもできません。アグニが弱っているサインとしては、舌苔、下痢、便秘、ガス、ゲップ、目の下のクマ、体臭や口臭、片頭痛、血行不良、アレルギー、強い恐れや不安感、怒りや混乱する心などなど。IBSの方はこのサインが当てはまる方が多いのではないでしょうか。
アグニ(消化力)を弱める原因
何がアグニを弱めてしまうのか、その原因は様々です。
・十分に噛まずに食べている(ながら食べ、早食い)
・前の食事が消化される前に食べる
・消化しにくいものを食べている(ジャンクフード、揚げ物、高加工食品、人工甘味料)
・食事と一緒に大量の水を飲む
・食べ合わせが悪いもの
・固い、乾燥しているものを大量に食べる
・一気に大量に食べる/空腹でも食事をしない
・不規則な食事サイクル
・運動不足/過度な運動
・感情の未処理(否定的、受け入れない心や態度)
などなど。
日本人はもともとあまり消化力が強くはないと考えられています。
それが食事やライフスタイルがどんどん欧米化していくなかで、気づかないうちに、もともと強くなかった消化力に負担をかけているのかもしれません。
私も自分自身の食事を振り返ってみると、昔はパンやパスタなどグルテンを多く含むものをよく食べていました。グルテンが消化しづらいというのは現在では多くの人が知っていることで、IBSの方は避けている方も多いかもしれませんね。
社会人になってからは仕事中に疲れやストレスを紛らわすために人工甘味料の入った甘いお菓子やコーヒーをよく摂っていました。
食べ合わせについては難しい部分がありますが、意外なものでアーユルヴェーダ的には良くないとされているのが「バナナヨーグルト」や「バナナスムージー」。この組み合わせは消化に負担がかかるようで消化力が弱っている方は避けた方が良いようです。
「何を食べているか」も大切ですが、「どう食べているか」、というのもとても大切です。この視点は意外と見落としがちではないでしょうか。
私は、小さい頃からテレビを見ながら食べるのが習慣になっていて、意識が食事から逸れてよく噛んでいなかったことに気づきました。また人より食べるのが遅いので急いで食べなきゃと焦った気持ちで食べていることも多かったです。
IBSになってからは、食事をするとどうしてもガスが出てしまうこともあり、特に学生時代はそれが心配で気になって、食事に集中することが難しかったです。
そして一見そんなに関係があるの?と思う「感情」。
心と身体は繋がっていて、思っている以上に抱いている感情が消化へも影響を及ぼします。私は長年の症状により自己否定的な気持ち、周りへの否定的な気持ち、あらゆることを受け入れられないといった感情を抱え込んでいて簡単に手放すこともできませんでした。それでも少しずつ自分自身や自分の状況を受け入れたり手放したりして気持ちも楽になり、症状の改善にも繋がっていると感じています。
みなさんはどうでしょうか。
今一度、何をどう食べているか振り返ってみると消化に負担をかけている原因がわかるかもしれません。まずは今自分が無意識に行っている習慣が負担をかけていないか気にしてみると良いかもしれません。
アグニ(消化力)を高める方法
アグニは高めることもでき、その方法も様々あります。
・液状になるまでよく噛んで落ち着いて食事を楽しむ(消化は唾液から、胃腸への負担軽減になる。)
・毎日同じ時間に食事を摂る(体内時計が働いて消化の準備をしてくれる)
・新鮮で調理したての温かい食事(冷たい飲食を避ける。胃腸の最適温度は37度くらい。)
・食事の前後に軽い散歩
・食前に生姜の前菜を食べる
・腹8分目
などなど。
まず一番簡単にすぐにできるのが「よく嚙む」ことです。
私は、自分はよく噛んでいると思っていました。
しかし「よく噛む」とは「唾液と混ぜるようにして液状になるくらいまで」と言われて、自分がよく噛んで食べていなかったことを認識しました。液状になるまで噛むとそれなりに時間がかかります。仕事の日のお昼や誰かと食事をする時には難しいかもしれませんが、ひとりでゆっくり食事ができる時にはぜひ意識してやってみてください。消化がスムーズな感覚や心地よい満腹感を感じられると思います。食べ過ぎ防止にもなりますし、よく噛むことで脳が活性化し記憶力UPやストレス解消にもなると言われています。
「よく噛む」って当たり前のことかもしれませんが、この当たり前のことが忙しい現代では難しくなっていることかもしれません。また昔に比べて現代はあまり噛まずに食べられてしまう柔らかい食べ物が増え、そういったものがブームになる傾向もあります。私自身もふわふわした柔らかいスイーツなどが好きですが「よく噛む」ことの大切さを改めて感じてからは、柔らかいものでも何でも意識して噛んで食べるようにしています。
それから、私がおすすめしたいのが生姜の前菜です。これもとても簡単に取り入れられるものです。生姜2スライスくらいを千切りにして岩塩を少し振り、レモンを絞ったら完成です。これを食事の15~20分前によく嚙んで食べます。これが合図となり胃腸が食事の準備をしてくれて消化がスムーズになります。
ポイントとしては、どの方法も気長に楽しみながら続けることです。薬などと違ってどれも即効性があるものではありません。ですが、続けることで少しずつ根本から良くなっていくことを助けてくれます。できる時、できない時、できること、できないことあると思うのですが、完璧にやろうと思わずにできる時にできることを楽しんで続けることが大切です。
今回紹介したもの以外にもアグニを高めるための様々な方法がありますので、またの機会に紹介できたらと思います。
【執筆者】
mii
15歳でIBS(ガス型)を発症。何をしても良くならず諦めかけていた頃、アーユルヴェーダに出会い少しずつ改善していることを実感。現在も学びながら緩くアーユルヴェーダライフを実践中。
Comments